野中生萌の筋肉はどう鍛えられた?強靱な体を生むトレーニングを分析

クライミングウォールを力強く登る野中生萌選手と発達した背中や肩 アスリートたち

野中生萌選手の筋肉は、8歳から続ける登攀で育ち、東京五輪前には体幹中心の補強によって磨かれました。

具体的なトレーニングや回復習慣は、主に2021年4月2日公開の『Tarzan』No.805掲載記事で本人が語った内容です。取材当時の事実と一般的な競技特性、筆者の考察を分けてご紹介します。

野中生萌の筋肉は何によって作られた?

野中生萌選手の広背筋や肩周りは、見た目を大きくするための筋力トレーニングではなく、長年にわたって壁を登り続けた結果として発達した筋肉です。

野中選手は1997年5月21日生まれ、東京都出身のプロクライマー。山登りが趣味だった父親に連れられてクライミングジムを訪れ、8歳で競技に出会いました。

3姉妹の末っ子で、先に登っていた姉たちから刺激を受けながら成長します。2010年にはJOCジュニアオリンピックカップ大会で初優勝し、2013年にリード、2014年には得意とするボルダリングで日本代表に選ばれました。

2021年4月2日に公開された『Tarzan』No.805のウェブ記事では、ホールドをつかんだ際に際立つ広い背中や、肩から腕にかけて発達した筋肉が取り上げられています。

野中選手は肩周りが大きいことを認めながらも、自分では背中を見る機会が少なく、どれほど目立っているのか分からないという趣旨の受け答えをしていました。外見を狙って作ったというより、登り続けた先に現在の体つきがあったことを感じさせますよね。

同記事で本人が説明した内容を整理すると、筋肉が作られた背景には次の要素があります。

  • 広背筋は専用のウェイトトレーニングではなく、主に登攀で発達した
  • 保持力の弱さを、大きな筋肉で体を引きつける動きによって補ってきた
  • 東京五輪前の補強では、筋肥大より体幹の安定を重視した
  • 肩の故障後には、安定して動かすための補強にも取り組んだ
  • 練習だけでなく、食事や入浴、休養による回復を意識していた

クライミングは腕だけで体を持ち上げる競技ではありません。足で壁を押し、胴体の位置を保ち、重心を移動させながら、必要な方向へ力を伝えていきます。

写真で目立つ背中や腕だけを見て「腕力が強いから登れる」と考えると、野中選手の強さの核心を見落としてしまいます。筋肉を増やしたことより、全身の力を登る動作へ変換できることが大切なのです。


野中生萌の広背筋はなぜ発達した?

野中生萌選手の広背筋が発達した主な理由は、頭上のホールドをつかみ、体を壁へ引きつける動作を長年繰り返してきたためです。

広背筋は背中の広い範囲を占め、腕を体のほうへ引き寄せる動作などに関わります。クライミングでは、上方のホールドを保持した状態から体を引き上げる際に動員される重要な筋肉の一つです。

『Tarzan』の2021年取材で、野中選手は広背筋を大きくする目的でウェイトや専用器具を使った経験はないと説明しています。したがって、「特別な背中の筋トレで作った」というより、競技動作を繰り返した体の適応と捉えるのが自然でしょう。

さらに興味深いのが、野中選手自身は、もともと指や手でホールドを保持する力がそれほど強くなかったと分析していた点です。その弱点を補うため、大きな筋肉を使って体を引きつける登り方が身についたと語っています。

これは、苦手な能力をただ平均まで引き上げたという話ではありません。自分が使いやすい力を生かし、課題を攻略できる形へ登り方を進化させたのです。

広背筋のほかにも、脇に近い大円筋や肩を覆う三角筋など、複数の筋肉が腕の動きを支えます。ホールドの位置や向きは一定ではないため、その場に合った角度で筋肉を協調させなければなりません。

遠いホールドへ勢いよく移るダイナミックなムーブも、広背筋だけでは完成しません。脚で壁を押す力、股関節の動き、体幹の固定、腕を出すタイミングが連動して初めて、力強い一手になります。

クライミングでは、課題の攻略手順を「ベータ」と呼ぶことがあります。筆者としては、野中選手は壁のベータだけでなく、自分の体を最も生かせる“身体のベータ”も作り上げてきたように感じます。

選手によって体格や柔軟性、得意な動きは異なります。野中選手の筋肉は、誰もが目指す一つの正解ではなく、本人の特徴に合った登り方を磨いた記録なのですね。


2021年の体幹トレーニングでは何を重視した?

2021年の取材時点で野中生萌選手が補強の中心に置いていたのは、筋肉をさらに大きくすることではなく、不安定な姿勢でも胴体を安定させる体幹トレーニングでした。

東京五輪へ向けた調整を進めていた2021年1月から2月には、筋力トレーニングの頻度を週1日から週2日へ増やしていたといいます。

ここでいう体幹は、腹筋だけを指すわけではありません。腹部や背部など胴体を支える筋肉が協調し、姿勢を保ったまま手足を動かせる状態が重要です。

クライミングでは、手足のうち数点だけで壁に接する場面が少なくありません。胴体が不用意に回転したり、壁から離れたりすれば、指や腕に余計な負担がかかります。

反対に、体の中心を適切な位置に保てれば、足で作った力を上半身へ伝えやすくなります。体幹には、力を生み出すだけでなく、手足の力を逃がさない「橋」のような役割があるのです。

2021年の『Tarzan』取材で紹介された器具が「フローイン」でした。滑りやすく加工されたシートの上で、手や足、膝などを滑らせながら動くトレーニングギアです。

接触面が滑る状況では、姿勢が崩れないように胴体を細かく調整し続ける必要があります。この不安定さが、壁の上で手足を動かしながら体の中心を保つ感覚と結びつくのでしょう。

※画像はAIによるイメージ

野中選手は当時、筋肉をさらに大きくする必要はない一方、不安定な姿勢に耐える力は必要だという趣旨の説明をしていました。

自分の体を持ち上げるクライミングでは、絶対的な筋力だけでなく、体重に対してどれほど効率よく力を発揮できるかも重要です。筋肉量を増やすだけではなく、すでにある力を無駄なく使うという考え方ですね。

ただし、この発言を「体重は軽いほどよい」と一般化してはいけません。必要な体格や栄養状態は選手ごとに異なり、無理な減量は健康や競技力を損なうおそれがあります。

また、確認できるのは東京五輪前の2021年取材時点の方法です。現在もフローインを使い、週2日の頻度で同じ補強を続けているかは公表資料だけでは判断できません。

競技者のトレーニングは、体調、故障歴、大会日程、重点種目によって変化します。そのため、「現在の定番メニュー」ではなく、東京五輪前に採用していた体幹強化法として理解するのが正確です。


肩の故障後にはどのような補強をした?

野中生萌選手の力強い肩周りには、日常的な登攀だけでなく、肩を故障した後に安定性を取り戻すため取り組んだ補強も関係しています。

クライミングでは、真上だけでなく、斜め上や横、時には体の後方に近いホールドへ手を伸ばします。肩周辺の関節と肩甲骨が協調することで腕を幅広い方向へ動かせますが、不安定な姿勢で大きな負荷が加わる場面もあります。

野中選手は『Tarzan』の取材で、練習のしすぎによって肩を故障した経験があり、その後、肩周りを重点的に補強した時期があったと明かしました。

ただし、公表されている記事からは診断名や個々のリハビリ種目までは確認できません。具体的な筋肉名やメニューを推測で付け加えることは避けるべきでしょう。

確かに言えるのは、発達した筋肉があれば故障しないわけではないということです。大きな力を出せる選手でも、練習量が過度になったり、関節へ想定外の負荷がかかったりすれば、不調につながる可能性があります。

私は、野中選手の肩を単に「生まれつき強い」と片づけられないところに注目しました。壁を登って育てた筋力に加え、故障後に必要な安定性を作り直した過程も、現在知られる力強い体の一部だからです。

強い体とは、一度も故障しない体だけを意味するのではないのでしょう。不調と向き合い、競技復帰に必要な機能を丁寧に整えられることも、トップ選手の大切な能力だと感じます。


ボルダー・リード・スピードで筋肉の使い方はどう違う?

野中生萌選手の強みは、発達した筋肉を一つの使い方に固定せず、種目ごとに異なる時間とタイミングで発揮できたことです。

東京五輪のスポーツクライミング女子複合は、スピード、ボルダリング、リードの3種目で争われました。野中選手は異なる能力が必要な3種目を戦い、銀メダルを獲得しています。

それぞれの種目で求められる力には、次のような違いがあります。

種目 主な競技特性 筋肉と体幹に求められる働き
ボルダリング 短い課題を少ない試技で攻略 瞬間的な出力、姿勢の切り替え、難しい体勢の保持
リード 制限時間内に高く登る 持久力、疲労を抑える動き、長時間の姿勢制御
スピード 15メートルの規格壁を登る速さを競う 脚と上半身の連動、動作の再現性、素早い重心移動

ボルダリングでは、遠いホールドへ移る瞬発力や、難しい姿勢を数秒保つ力が必要です。一方、リードでは一手ごとの消耗を抑え、限られた筋力を長く使わなければなりません。

スピードでは同じ配置を繰り返し練習できるため、筋力に加えて動作の正確な再現がタイムを左右します。野中選手は、楢﨑智亜選手の名前に由来する動きとして知られる「トモア・ステップ」も取り入れ、規格壁へ動作を最適化しました。

JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)が伝えた大会記録によると、野中選手が日本女子として公式大会で初めて7秒台を記録したのは、2021年6月18日のスピードジャパンオープン盛岡大会予選です。

最初に7秒95を記録し、続くトライでは7秒88へ更新しました。2019年の第1回スピードジャパンカップ優勝とは別の実績であり、達成時期を混同しないことが大切です。

この記録は筋肉の大きさを示すものではありません。壁を蹴る脚力、胴体の向きを切り替える体幹、次のホールドへつなぐ上半身の力を、決められた順序で素早く働かせた成果です。

野中選手は2016年にボルダリングワールドカップで初優勝し、2018年には同種目のワールドカップ年間総合優勝を達成しました。そこからスピードへの対応力も高め、東京五輪では3種目を戦い抜いています。

筆者としては、ここに野中選手らしさがよく表れていると感じます。力強いボルダラーでありながら、瞬発力だけに頼らず、種目に応じて力を出す長さや順序まで変えられる。その適応力こそ、筋肉の見た目以上に価値のある強みなのでしょう。


野中生萌が語った食事・入浴・休養とは?

2021年の取材で野中生萌選手は、トレーニングだけでなく、次のトライへ向けた回復も重視していました。

『Tarzan』の記事で紹介された当時の主な習慣は、次のとおりです。

  • 日常的にストレッチを行う
  • 登っている最中から疲労の程度を確認する
  • 疲労を感じた際に鮭のおにぎりなどを食べる
  • 42度ほどの湯船に1時間程度入ることがある
  • 強い疲労を感じた場合は2日間休む

鮭にはタンパク質、ご飯には炭水化物が含まれています。そのため鮭のおにぎりは運動後の補給として理解しやすい食品ですが、一品を食べれば野中選手のような筋肉がつくわけではありません。

筋肉は、長年の練習、日々の食事、睡眠や休養が重なって作られます。必要なエネルギーや栄養量も、体格、運動量、健康状態によって異なります。

42度ほどの湯に1時間入るという方法も、2021年取材時点における本人の習慣です。熱い湯への長時間入浴では大量に汗をかくことがあり、脱水、立ちくらみ、体調不良などに注意が必要です。

厚生労働省が紹介する入浴事故予防の考え方でも、長時間の入浴や急激な温度変化を避けることが重視されています。野中選手の習慣を一般の人がそのまま再現するのではなく、自分の体調に合った温度と時間を選ぶことが大切です。

野中選手は練習熱心で、3日間登らないと感覚が大きく変わるという趣旨の話もしていました。本当に疲れているときは2日休んでも、3日目にはジムへ行ってしまうとも語っています。

これは長い競技経験のなかで、自分の疲労と登る感覚を確かめてきた選手の判断です。「トップ選手は休んではいけない」という意味に受け取るべきではありません。

初心者や成長期の選手は、痛みや強い疲労を我慢して同じ練習量を再現しないことが大切です。不調が続く場合には、指導者や医療の専門家へ相談する必要があります。


野中生萌の筋肉とトレーニングから分かる強さとは?

ここからは、2021年の本人発言と競技実績を踏まえた筆者の考察です。

野中生萌選手の体づくりで特に印象的なのは、全身の筋肉を均等に大きくするのではなく、自分の登りに必要な能力を選び取ってきたことだと私は考えます。

本人が弱点と捉えていた保持力に対し、大きな筋群を使って体を引きつける登り方を磨きました。その動きを繰り返すなかで、広背筋をはじめとする背中や肩の筋肉が発達したのでしょう。

もっとも、「保持力が弱かったから広背筋が大きくなった」と単純な因果関係を断定することはできません。体格、競技歴、練習量など複数の要素があり、公開取材は筋肉の変化を継続測定した研究ではないためです。

事実として確認できるのは、本人が保持力を弱点として挙げ、大きな筋肉で補う登り方を説明していたこと。そして、広背筋を狙ったウェイトトレーニングではなく、主に登攀で発達したと語っていたことです。

東京五輪前に筋力トレーニングを週1日から週2日へ増やしながら、筋肥大ではなく体幹の安定へ重点を置いた判断にも、はっきりした目的が見えます。出力をさらに増やすより、すでにある力を難しい姿勢で正確に伝えるほうが、当時の課題に合っていたと考えられます。

野中選手の背中や肩には、8歳からの登攀、弱点に合わせた動作の工夫、肩の故障後に行った補強が重なっています。筋肉は単なる身体データではなく、選手が課題と向き合ってきた履歴でもあるのですね。

2018年のボルダリングワールドカップ年間総合優勝、2019年の第1回スピードジャパンカップ優勝、2021年の公式大会における日本女子初の7秒台、そして東京五輪銀メダル。これらは筋力だけでなく、技術、判断、反復練習を組み合わせた成果です。

今回確認できた具体的なトレーニング情報は、東京五輪前の2021年取材が中心です。現在の野中選手について、新たな本人発言なしに同じメニューを継続していると決めつけることはできません。

選手の練習方法は、年齢、故障歴、大会日程、競技ルールによって更新されます。過去の方法を正しい時系列に置き、その時点で何を目指していたのかを理解することが、選手の努力を誠実に伝えることにつながると私は思います。


まとめ

野中生萌選手の広背筋や肩周りは、見た目を大きくするためのウェイトトレーニングではなく、8歳から続けてきたクライミングによって主に発達しました。

2021年4月2日公開の『Tarzan』No.805掲載記事によると、東京五輪前には筋力トレーニングを週1日から週2日へ増やし、フローインを用いた体幹強化にも取り組んでいました。肩の故障後には、安定して登るため肩周りを補強した経験もあります。

野中選手の強さを表すのは、筋肉の大きさだけではありません。保持力の弱さを大きな筋群で補う工夫、体幹を介して手足へ力を伝える能力、種目ごとに出力を使い分ける適応力、疲労を確認しながら回復する判断が力強い登りを支えてきました。


よくある質問

野中生萌選手はウェイトで広背筋を大きくしたのですか?

2021年の本人の説明によると、広背筋を大きくする目的でウェイトや専用器具を使った経験はなく、主にクライミングを続けるなかで発達しました。東京五輪前の補強では、筋肥大より体幹の安定を重視していました。

野中生萌選手が使っていた体幹トレーニング器具は何ですか?

2021年の『Tarzan』取材では、滑りやすいシート上で手足などを動かす「フローイン」が紹介されました。不安定な状態で姿勢を保ち、体幹を安定させながら手足を動かすために活用していました。

野中生萌選手は現在も同じトレーニングをしていますか?

今回確認できるのは、東京五輪前の2021年取材時点の内容です。現在も同じ器具、種目、頻度でトレーニングしているかは、最新の本人発言や公式情報がない限り断定できません。

執筆者:春野滋(エンタメ&スポーツ愛好家ライター)

コメント

タイトルとURLをコピーしました