戸上隼輔選手の「カミソリドライブ」は、スマッシュの力強さとドライブの回転を掛け合わせ、相手を後方へ押し込む攻撃です。
この呼称と特徴は2024年4月5日放送のテレビ朝日系『報道ステーション』で紹介されました。一方、2023年全日本卓球選手権決勝については、公式記録と試合報道を基に、その特徴に通じる攻撃が張本智和選手をどう崩したのかを分析します。
戸上隼輔のカミソリドライブとは?
カミソリドライブとは、戸上隼輔選手が「スマッシュとドライブを掛け合わせた」イメージで放つ、力強いドライブの呼称です。
2024年4月5日放送のテレビ朝日系『報道ステーション』では、パリ五輪代表に決まっていた戸上選手の武器として、このカミソリドライブが取り上げられました。
番組で戸上選手本人が説明したポイントは、主に次の二つです。
- スマッシュとドライブを掛け合わせた感覚で打つ
- 100%の力で打つことで、相手をのけぞらせたり後方へ下げたりする
ここで区別しておきたいのが、番組で確認できる事実と、卓球の技術原理を踏まえた筆者の分析です。
区分 確認できる内容
番組で紹介された事実 「カミソリドライブ」という呼称、スマッシュとドライブを掛け合わせたという本人の説明
本人が説明した効果 全力で打つことで相手をのけぞらせ、後ろへ下げやすくなる
公表を確認できない情報 具体的な球速、毎分回転数、打球角度、他選手との数値比較
筆者による技術分析 速さ、回転、打点、コース、次球へのつながりが威力を形づくる
スマッシュとは、浮いたボールなどを強くたたき、主に速度で得点を狙う打ち方です。
一方のドライブは、ラケットでボールをこすり上げるようにして前進回転を与え、ネットを越えたボールを相手コートへ沈ませます。
戸上選手の説明を踏まえると、カミソリドライブは、スマッシュのような強いインパクトを意識しながら、前進回転を加えてコートへ収める攻撃と捉えられます。
ただし、「スマッシュ級の球速が計測された」「通常のドライブより何キロ速い」といった数値は、今回確認した番組情報や大会記録には示されていません。
そのため、本記事では「高速」「深い」と無条件に断定せず、本人の説明、試合報道、一般的な技術原理、筆者が映像から読み取った特徴を分けてお伝えします。
また、カミソリドライブは、卓球のルールブックに定められた正式な技術名称ではありません。
命名者や初めて使われた時期についても、確認できる一次資料は見つかりませんでした。戸上選手の力強く鋭いドライブを視聴者へ分かりやすく伝えるための呼称と考えるのが慎重でしょう。
名前だけを聞くと、ボールが刃物のように曲がる特殊な打法を想像する方もいるかもしれません。
しかし、本質は奇抜な変化ではなく、相手が十分な姿勢をつくる前に強いボールを送り、立ち位置と時間を奪うことにあると私は見ています。
カミソリドライブの打ち方と威力はどこから生まれる?
カミソリドライブの威力は、腕力だけではなく、低い姿勢、脚の踏み込み、体幹の回転、早い準備が連動することで生まれると考えられます。
ここからは、戸上選手の本人説明と公開された試合内容を踏まえた筆者の技術分析です。戸上選手本人がフォームを細かな段階に分けて指導した内容ではありません。
戸上選手は右利きのシェークハンドで、フォアとバックの両面に裏ソフトラバーを使用する攻撃型です。
フォアハンドでは低い姿勢で打球位置へ入り、床を蹴る力を腰、肩、腕へと伝えながら振り抜きます。腕だけで強く打つのではなく、全身の回転をボールへ集めているように見えるのですね。
一般的な卓球の技術原理では、強いドライブを安定して入れるために、次の要素が重要になります。
- 相手の回転とボールの高さを早く判断する
- 打球点へ脚を運び、体の前にスイング空間をつくる
- 下半身から上半身へ力を伝える
- ボールへ前進回転を与え、台へ収まりやすくする
- 打った後に体勢を戻し、次の一球へ備える
戸上選手のカミソリドライブで特に注目したいのは、最後の「次の一球へ備える」という部分です。
一発で抜き去るほどのボールが決まれば華やかですが、国際レベルの選手は強打にも反応します。返球されたときに次の攻撃へ移れなければ、最初の威力を試合の優位へ変えられません。
戸上選手本人が説明したように、強打によって相手がのけぞったり、台から下がったりすれば、返球側は理想的な姿勢を保ちにくくなります。
これは、必ず返球が短くなるという意味ではありません。相手の技術、コース、回転によって返球は変わるためです。
それでも、後ろへ重心を動かされた選手は、体の前に十分な打球空間をつくるための調整が必要になります。戸上選手は、そのわずかな遅れを次の攻撃に利用できると考えられます。
深さも重要な観戦ポイントです。
一般論として、エンドラインに近い位置へ伸びるボールは、浅く入るボールより相手を後方へ動かしやすくなります。ただし、カミソリドライブが常に深いコースへ入ると公表されているわけではありません。
試合を見るときは、球速を目だけで判断するよりも、相手の足に注目してみてください。
打球を受けた相手が一歩下がったのか、上体が起きたのか、ラケットを出す位置が遅れたのか。そうした反応を見ると、画面では測れないボールの圧力が分かりやすくなりますよ。
私が感じるカミソリドライブの面白さは、最後に決まった一球だけでなく、その一つ前のボールで相手の立ち位置を変えていることです。
料理にたとえるなら、強いフォアドライブが火力で、サービスやバックハンドは下ごしらえ。火力だけに目を奪われず、強打を打てる状況がどう生まれたのかを見ると、戸上選手の卓球が一段と立体的に見えてきます。
2023年全日本決勝で張本智和をどう崩した?
2023年1月29日、東京体育館で行われた全日本卓球選手権男子シングルス決勝で、戸上隼輔選手は張本智和選手をゲームカウント4-2で破り、2連覇を達成しました。
まず大切なのは、2023年の大会記録が個々の打球を「カミソリドライブ」と公式認定したわけではないという点です。
「カミソリドライブ」という呼称を確認できるのは、翌2024年4月5日の『報道ステーション』です。
したがって、2023年決勝で見られた攻撃を「番組がカミソリドライブと名付けた場面」と断定することはできません。
本記事では、2024年の番組で示された「強打で相手をのけぞらせ、後方へ押し込む」という特徴に照らし、2023年決勝の公式記録、卓球レポート、VICTASの試合報告から、共通する戦術を読み解いています。
試合結果は次の通りです。
日付・大会 ラウンド 勝者 敗者 ゲームカウント
2023年1月29日・全日本卓球選手権 男子シングルス決勝 戸上隼輔 張本智和 4-2
ゲーム 戸上隼輔 張本智和
第1ゲーム 11 8
第2ゲーム 10 12
第3ゲーム 17 15
第4ゲーム 11 6
第5ゲーム 7 11
第6ゲーム 11 4
第1ゲームを戸上選手が11-8で先取し、第2ゲームは張本選手が12-10で取り返しました。
勝負の大きな分岐点になったのが、ジュースの末に戸上選手が17-15で奪った第3ゲームです。
日本卓球協会が2023年1月29日に掲載した大会記事では、ストップ同士の攻防では分が悪いとみた戸上選手が、チキータレシーブを続けてゲームポイントをしのいだ経過が伝えられています。
チキータとは、台上の短いボールをバックハンドで横方向へこすり、回転をかけて攻撃的に返す技術です。レシーブ側から先手を取りやすいため、現代卓球では欠かせない技術の一つになっています。
戸上選手はフォアの強打だけに頼らず、台上から自分で攻撃を始める方法を選びました。
張本選手が13-12とリードした場面でタイムアウトを取り、その後もゲームポイントを握りましたが、戸上選手は粘って逆転。後方からのカウンターも交え、17-15で競り勝っています。
卓球レポートが2023年1月29日に公開した「2023年全日本卓球 男子シングルスは戸上が制し、2連覇」では、戸上選手の猛攻に張本選手がブロックで応戦した試合として報じられました。
また、VICTASの大会リポート「強気のフォアでの勝負を貫いた戸上隼輔」では、戸上選手がバック対バックで打ち合いながら先に張本選手のフォア側を突き、その後に得意のフォアで決める積極的な展開が紹介されています。
ここに、2023年決勝を読み解く大切な鍵があります。
戸上選手は、いきなり難しい体勢から最大出力のフォアを狙い続けたのではありません。バックハンドやチキータで先に張本選手を動かし、フォアの強打を通しやすい状況をつくっていたのです。
第4ゲームは戸上選手が11-6で取り、第5ゲームは張本選手が11-7で奪取。戸上選手は第6ゲームを11-4で締め、優勝を決めました。
最終結果は4-2ですが、第2ゲームと第3ゲームはいずれも2点差でした。
もし第3ゲームが張本選手へ渡っていれば、張本選手がゲームカウント2-1と先行していました。戸上選手が何度もゲームポイントをしのいだ17-15は、単なる1ゲーム以上の重みを持っていたと考えられます。

張本智和戦でカミソリドライブにつながる配球は?
2023年全日本決勝で際立ったのは、フォアの威力だけではなく、バックハンドで張本智和選手の位置を動かしてから強打へつなぐ配球でした。
張本選手は、台に近い位置でボールを捉え、速いテンポのバックハンドやチキータから主導権を握ることを得意としています。
しかし、戸上選手が先にフォア側へボールを送り、張本選手の位置や体の向きを変えれば、同じ場所で連続して早い打点を確保することは難しくなります。
戸上選手が奪おうとしたのは、張本選手の技そのものではなく、得意な技を続けて使うための位置と時間だったのではないでしょうか。
もっとも、「戸上選手が張本選手のチキータを完全に封じた」と表現するのは正確ではありません。
張本選手は第2ゲームでチキータなどから攻勢を強め、12-10でゲームを取り返しています。張本選手の技が通用しなかったのではなく、戸上選手が台上、バック対バック、フォア強打という複数の局面で圧力をかけ続けた試合と見るほうが実態に近いでしょう。
カミソリドライブにつながる状況を、2023年決勝の内容と一般的な卓球戦術から整理すると、次のようになります。
- サービス後、相手の返球が長くなった3球目
- チキータやバックハンドで先手を取り、次の返球を予測しやすくした場面
- バックのストレートで相手をフォア側へ動かした後
- 台上の攻防からボールが長く出た場面
- 相手の強打を中陣や後陣から返し、攻守を入れ替えた場面
これは戸上選手本人が五つに分類したものではなく、試合報道と技術原理を基にした筆者の整理です。
とりわけ注目したいのは、バックのストレートです。
右利き同士のバック対バックでは、互いのバック側へクロスにボールが集まりやすくなります。そこから戸上選手が張本選手のフォア側へストレートに変えると、張本選手は横へ動いて対応しなければなりません。
張本選手が返球できても、元の位置へ戻るための時間が必要です。その次に戸上選手が強いフォアを打てれば、相手が万全の体勢を取り戻す前に再び圧力をかけられます。
こうして見ると、カミソリドライブに通じる強打は、単独で突然現れる「必殺技」というより、細かな配球によって準備された最後の刃といえそうです。
観戦時には、得点したボールだけを追うのではなく、その前の二球にも注目してみてください。
「どちらが先に相手を動かしたか」「フォアを打つ空間をどうつくったか」を見ると、戸上選手の豪快さの奥にある繊細な設計が伝わってきますよ。
戸上隼輔の強打を支えるバックハンドとは?
戸上隼輔選手のフォア強打をより生かしたのは、張本智和選手とバック対バックで大きく崩れなかったことです。
VICTASの2023年全日本決勝リポートでは、戸上選手がドイツ・ブンデスリーガ参戦を機に、打球点の幅を広げるバックハンドの強化へ取り組んできたと説明されています。
同記事は、台上、下回転に対する攻撃、中陣からの反撃まで、戸上選手のバックハンドのミスが少なかったことも評価しています。
これは、フォアのカミソリドライブを考えるうえでも見逃せない情報です。
バック側で簡単に押し込まれてしまえば、フォアハンドを振るために回り込む余裕は生まれません。安定したバックハンドで相手と打ち合い、コースを変えられるからこそ、フォアの威力が生きるのです。
戸上選手の強さを「腕力のあるフォア型」とだけ見ると、この関係が抜け落ちてしまいます。
バックで耐える、先にストレートへ変える、相手の位置がずれたところでフォアを打つ。この順序まで含めて、一つの攻撃システムになっているのですね。
戸上選手は2001年8月24日生まれ、三重県出身。3歳で卓球を始め、野田学園高校時代には2018年と2019年のインターハイ男子シングルスを連覇しました。
その後は明治大学へ進み、国内外の大会で経験を積んでいます。ただし、幼少期からの経歴がカミソリドライブを直接生んだという本人や指導者の説明は、今回確認した資料にはありません。
経歴をそのまま技の誕生物語へ結びつけるのではなく、2023年決勝で報じられたバックハンド強化のように、具体的な練習テーマと試合内容を結びつけて評価することが大切でしょう。
カミソリドライブは今後どう進化する?
ここからは筆者の考察です。
私は、カミソリドライブの今後を左右するのは、さらに速く打つことだけではなく、強打が来るタイミングとコースを相手に読ませないことだと考えています。
世界のトップ選手は、同じ相手と何度も対戦しながら球質や配球へ適応します。どれほど強いドライブでも、同じテンポとコースが続けば、早い打点でカウンターされる可能性が高まります。
その点、2023年全日本決勝で見せたバックのストレートは、戸上選手の進む方向を示す具体例でしょう。
バック対バックから先に方向を変え、相手を動かしてフォアへつなげる。最大威力を無理に上げなくても、相手の体勢を先に崩せば、同じ強打がより決まりやすくなります。
速度の違うドライブや、相手の体に近いミドルへのボールを組み合わせることも、一般的な戦術として有効です。
ただし、戸上選手が特定の回転差やミドル攻めを今後の強化課題として公言したと確認できたわけではありません。ここは試合内容から考えられる展望として受け取ってください。
私が戸上選手に期待したいのは、力強さを失わずに、バックハンドや台上技術とのつながりをさらに滑らかにすることです。
2023年決勝では、チキータでゲームポイントをしのぎ、バックのストレートで張本選手を動かし、中陣からも反撃しました。その多彩さがあったからこそ、フォアの一撃が生きました。
カミソリドライブは、派手な名前だけを切り取れば、一球で相手を打ち抜く技に見えます。
けれども、その本当の魅力は、強打の前にある準備と、強打の後まで見据えた連続性にあるのではないでしょうか。
3歳から卓球を続け、国内外で積み上げた技術を一球の迫力へ変えていく戸上選手。その豪快な姿の裏に、緻密な判断と地道な強化があると思うと、つい親心で応援したくなりますよね。
まとめ
戸上隼輔選手のカミソリドライブは、スマッシュとドライブを掛け合わせたイメージで放ち、相手をのけぞらせたり後方へ下げたりする力強い攻撃です。
この呼称と本人の説明が確認できるのは、2024年4月5日放送のテレビ朝日系『報道ステーション』です。具体的な球速や回転数は公表を確認できないため、数値に基づいて「最速」などと断定することはできません。
2023年1月29日の全日本卓球選手権決勝では、戸上選手が張本智和選手を4-2で破り、男子シングルス2連覇を達成しました。
ただし、大会記録が決勝の特定の打球を「カミソリドライブ」と認定したわけではありません。本記事では、番組で示された特徴と、公式記録や試合報道で確認できる攻撃内容を分けたうえで分析しました。
決勝で重要だったのは、フォアの威力だけではありません。
チキータで先手を取り、バック対バックで崩れず、張本選手のフォア側へストレートに打って位置を動かす。その準備があったからこそ、戸上選手の力強いフォアがより効果的に働いたと考えられます。
カミソリドライブを見るときは、決まった一球に加え、その前に戸上選手が相手の位置と時間をどう奪ったのかにも注目してみてください。豪快さの中にある繊細さこそ、戸上選手の大きな魅力です。
この記事で確認した主な資料
- テレビ朝日系『報道ステーション』2024年4月5日放送・戸上隼輔選手の特集
- 日本卓球協会「女子シングルスは早田ひなが制し3冠達成」2023年1月29日公開(同記事内に男子シングルス決勝の試合経過を掲載)
- 卓球レポート「2023年全日本卓球 男子シングルスは戸上が制し、2連覇」2023年1月29日公開
- 卓球TV「2023年全日本卓球選手権大会 男子シングルス決勝 戸上隼輔 vs. 張本智和」2023年1月29日公開
- VICTAS「2023年全日本卓球選手権 強気のフォアでの勝負を貫いた戸上隼輔。張本智和を決勝で下し、男子シングルス2連覇達成」
- テレビ東京卓球NEWS「戸上隼輔 連覇達成!張本智和を破って2年連続V!」2023年1月29日公開
よくある質問
戸上隼輔のカミソリドライブとは何ですか?
戸上選手本人が「スマッシュとドライブを掛け合わせた」と説明した力強いドライブです。全力で打つことで、相手をのけぞらせたり後方へ下げたりする効果があると紹介されました。
カミソリドライブは正式な卓球用語ですか?
正式な技術名称ではありません。命名者や初出も明確に確認できず、戸上選手の鋭いドライブを分かりやすく表す呼称と考えられます。
2023年全日本決勝で戸上隼輔は張本智和に何対何で勝ちましたか?
戸上選手がゲームカウント4-2で勝利しました。各ゲームは11-8、10-12、17-15、11-6、7-11、11-4で、戸上選手は男子シングルス2連覇を達成しています。
2023年全日本決勝でカミソリドライブが使われたのですか?
2023年決勝の公式記録は、特定の打球をカミソリドライブと認定していません。この呼称は2024年の番組で確認できるため、決勝で見られた強打と配球を、その特徴に照らして分析するのが正確です。
ひたむきに頑張る若者たちの姿を親心で見守り、その魅力を温かい言葉で丁寧にお伝えします。
春野滋(エンタメ&スポーツ愛好家ライター)

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