杉山慎さんの代表作は、講談社科学出版賞を受賞した『南極の氷に何が起きているか』です。公開資料で確認できる主な出版物4冊のうち、一般向け単著はこの1冊で、ほかは共著・分担執筆です。
受賞歴では、日本雪氷学会の論文賞・学術賞から、2025年の国際的なメダルまで、主要なものを確認範囲で6件整理しました。
杉山慎の代表作と主な出版物4冊とは?
杉山慎さんは、北海道大学低温科学研究所で氷河・氷床を研究してきた雪氷学者です。
特に、厚い氷の下で起きている現象を現地観測し、氷河が動く仕組みや、海・湖との相互作用を明らかにする研究で知られています。
一般読者向けの代表作は、2021年に中央公論新社の中公新書として刊行された『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』です。
北海道大学の研究者情報やresearchmapなどで確認できる主な出版物には、次の4冊があります。
刊行年 書名 出版社 杉山慎さんの担当形態
2008年 『なぞの宝庫・南極大陸 100万年前の地球を読む』 技術評論社 共著
2015年 『低温科学便覧』 丸善出版 分担執筆を含む共同刊行物
2016年 『低温環境の科学事典』 朝倉書店 分担執筆を含む共同刊行物
2021年 『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』 中央公論新社 単著
ここで注意したいのは、「杉山慎さんの著書は全部で4冊」という意味ではないことです。
この4冊は、公開されている研究者情報などから確認できる主な書籍等出版物を、一般向け単著、共著、便覧・事典への分担執筆に分けて整理したものです。
学術論文、調査報告書、学会要旨、大学の刊行物などは含めていません。また、事典や便覧では一部の項目や章を研究者が担当することがあります。
そのため、「4冊すべてを杉山慎さんが一人で執筆した」と受け取るのは正確ではありません。
公開情報の範囲では、一般向け単著が1冊、共著・分担執筆による主な出版物が3冊と理解するのが適切でしょう。
『なぞの宝庫・南極大陸』はどのような本?
『なぞの宝庫・南極大陸 100万年前の地球を読む』は、2008年に技術評論社から刊行された共著です。
南極の氷床だけでなく、過去の気候、地質、生物などを幅広く取り上げ、南極大陸から地球の歴史を読み解いていきます。
南極の氷には、雪が降った当時の空気や物質が閉じ込められています。そのため、氷を詳しく調べることは、遠い過去の地球環境をたどる手がかりになるのです。
杉山慎さん一人の作品ではありませんが、専門家だけのものに見えがちな南極研究を、一般の読者へ開く役割を持った一冊といえるでしょう。
『低温科学便覧』と『低温環境の科学事典』での役割は?
『低温科学便覧』と『低温環境の科学事典』は、低温環境で起きる自然現象や研究成果を体系的にまとめた専門性の高い出版物です。
氷河や氷床だけでなく、雪、永久凍土、寒冷圏の生物、低温下における物質の性質など、多様なテーマを扱います。
研究者情報では杉山慎さんの書籍等出版物として登録されていますが、単著ではありません。便覧や事典の性質上、複数の研究者が専門分野を分担して執筆した共同刊行物として区別する必要があります。
なお、公開されている研究者情報だけでは、版によって杉山慎さんの担当章名や執筆ページまで一律に確認できない場合があります。
確認できない担当範囲を推測して断定するより、「分担執筆を含む専門刊行物」と明示するほうが誠実でしょう。詳しい担当項目を調べる場合は、各書の奥付、目次、執筆者一覧を照合する必要があります。
私は、一般向け新書と専門的な便覧・事典の両方に関わっている点に注目しました。
研究成果を専門家の知識基盤として残す仕事と、初めて南極を学ぶ読者へ伝える仕事。その両方を担ってきたところに、杉山慎さんの活動の広さが表れています。
代表作『南極の氷に何が起きているか』の内容は?
『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』は、南極氷床の成り立ち、観測方法、近年の変化を一般向けに解説した中公新書です。
本書の特徴は、南極の変化を「温暖化で氷が融けている」という短い説明だけで終わらせていない点にあります。
南極氷床とは、長い年月をかけて降り積もった雪が、自らの重さで圧縮され、巨大な氷の塊になったものです。
同書では、その面積が日本のおよそ40倍、平均の厚さが約2000メートルに及ぶことが紹介されています。ここでの数値は、同書が示す南極氷床の規模を分かりやすく表した目安です。
これほど広大で厚い氷を、研究者が地上からくまなく調べることはできません。
そこで人工衛星を使い、氷床表面の高さ、氷が流れる速さ、重さの変化などを広い範囲で観測します。
ただし、人工衛星から主に捉えられるのは氷床の表面です。
厚い氷の下に水があるのか、その水圧がどの程度なのか、氷が地面の上をどのように滑っているのかといった底面の状態は、宇宙から眺めるだけでは十分に分かりません。
そこで必要になるのが、杉山慎さんが取り組んできた熱水掘削による直接観測です。
熱水掘削では、高温の水を噴射して氷河に細い孔を開けます。その孔から観測機器を氷河内部や底面付近まで下ろし、水圧、氷の温度、氷河の変形などを調べます。
人工衛星が広大な氷床を見渡す「広い目」だとすれば、熱水掘削は厚い氷の奥へ入り込む「深い目」です。
この二つの観測を組み合わせることで、表面に現れた変化だけでなく、その変化がなぜ起きたのかを考えられるようになります。
南極の氷はどこから融ける?
本書を理解するうえで大切なのは、南極の氷がどこでも同じように変化しているわけではないという点です。
南極内陸部は非常に寒いため、気温が少し上昇しただけで、表面の氷が一斉に融け出すわけではありません。
一方、海へ張り出した棚氷や海に面した氷河では、比較的暖かい海水が氷の下側へ入り込み、底から融解を進めることがあります。
さらに、降雪量が増えれば氷床の質量を増やす方向に働きます。氷河底面の水圧が変われば、地面との摩擦が弱まり、氷の流れる速さが変わる可能性もあります。
つまり、南極氷床の将来を考えるには、次の要素をまとめて見る必要があります。
- 大気の温度
- 海水温と海洋循環
- 降雪量
- 氷河の流動速度
- 氷河底面にある水の量や圧力
- 棚氷が氷河の流出を抑える働き
私は、この複数の要因を切り分けて説明している点が、本書の科学コミュニケーションとして優れた部分だと感じました。
単に危機感を強調するのではなく、観測で分かったこと、複数の解釈があること、まだ十分に分かっていないことを分けているからです。
科学の解説では、強い断言のほうが分かりやすく見えることがありますよね。
けれども、本当に信頼できる説明とは、確かな部分と未解明の部分の境界を隠さないものではないでしょうか。本書は、南極研究の難しさそのものを読者に伝えているところに価値があります。
杉山慎の受賞歴は?主要6件を年代順に紹介
杉山慎さんの主要な受賞歴として、公開資料から確認できるものは、2011年から2025年までに少なくとも6件あります。
論文、研究テーマ、現地観測、大学教育、科学出版、国際的な研究貢献と、異なる角度から評価されていることが特徴です。
受賞日・年度 授与機関・賞名 確認できる対象業績
2011年9月21日 日本雪氷学会2011年度論文賞 ペリト・モレノ氷河での熱水掘削に関する論文
2013年9月19日 日本雪氷学会2013年度学術賞 氷河・氷床の底面動力学プロセスの研究
2015年3月 北海道大学教育総長奨励賞 公開記録では詳細な対象業績名を確認できず
2019年5月10日 2018年度北海道雪氷賞・北の六華賞 南極ラングホブデ氷河における熱水掘削
2022年9月15日 第38回講談社科学出版賞 『南極の氷に何が起きているか』
2025年4月29日 EGU Julia and Johannes Weertman Medal 氷河動力学と氷・水相互作用に関する研究
この表から分かるのは、受賞が単発の成果に集中していないことです。
現場で測る技術、そのデータから氷河の仕組みを解明する研究、一般読者へ伝える出版活動が、それぞれ評価されています。
2011年度日本雪氷学会論文賞
杉山慎さんは2011年9月21日、日本雪氷学会の2011年度論文賞を共同受賞しました。
対象となったのは、南米パタゴニアのペリト・モレノ氷河における熱水掘削を扱った論文「Hot-water drilling at Glaciar Perito Moreno, Southern Patagonia Icefield」です。
共同研究者として、杉山慎さんのほか、内藤望さん、刀根賢太さん、榎本浩之さん、安仁屋政武さんの名前が記録されています。
ペリト・モレノ氷河は、南パタゴニア氷原に位置する大規模な氷河です。
この受賞のポイントは、見えない氷河内部や底面へ観測機器を届けるための熱水掘削が、研究成果として早い時期から評価されていたことにあります。
のちに南極でも使われる観測技術の土台を考えるうえで、重要な受賞といえるでしょう。
2013年度日本雪氷学会学術賞
2013年9月19日には、日本雪氷学会の2013年度学術賞を受賞しました。
対象業績は、「氷河・氷床の底面動力学プロセスの研究」です。
底面動力学とは、氷河や氷床が地面の上をどのように滑り、流れる速度を変えるのかを研究する分野です。
氷河底面にある融け水の量や圧力、地面との摩擦状態が変われば、氷の動きも変化します。その仕組みを理解することは、氷河が将来どのように海へ流れ出すのかを予測するために欠かせません。
2011年の論文賞が具体的な掘削観測の成果だとすれば、2013年の学術賞は、そこから氷河底面の物理過程を解き明かしてきた研究全体への評価と捉えられます。
2015年北海道大学教育総長奨励賞
2015年3月には、北海道大学教育総長奨励賞を受賞しています。
ただし、公開されている受賞記録では、賞名と受賞時期は確認できるものの、ほかの学術賞のような詳しい対象業績名までは明示されていません。
そのため、「特定の授業」や「特定の実習」が直接の受賞理由だったと断定することは避けるべきです。
杉山慎さんが大学院教育や極地研究者の育成に携わってきたことは、教育活動を知るうえでの関連情報です。しかし、それをそのままこの賞の公式な授賞理由と結びつけることはできません。
確認できる事実は教育総長奨励賞を受賞したことまでで、詳細な評価対象は公開資料だけでは特定できないと分けておくのが正確です。
2018年度北海道雪氷賞・北の六華賞
2019年5月10日には、日本雪氷学会北海道支部から、2018年度北海道雪氷賞「北の六華賞」を受賞しました。
受賞対象は、「南極ラングホブデ氷河における熱水掘削」です。
ラングホブデ氷河は、南極の昭和基地に比較的近い地域に位置します。ここで実施された熱水掘削により、厚い氷の内部や底面を直接調べる研究が進められました。
2011年度の論文賞と比べると、観測地は南米パタゴニアから南極へ移っています。
同じ熱水掘削という方法を、異なる氷河環境で発展させてきた流れが見える受賞です。杉山慎さんの研究が、特定の一地点だけにとどまらないことも示しています。

第38回講談社科学出版賞
2022年9月15日には、講談社の第38回講談社科学出版賞を受賞しました。
対象作品は、中央公論新社から刊行された『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』です。
中央公論新社が同日に公開した受賞記念インタビューでは、杉山慎さんにとって著書による受賞は初めてだったことが紹介されています。
研究論文では、同じ分野の専門家が検証できるよう、観測方法やデータ、分析結果を厳密に示すことが優先されます。
一方、一般向けの科学書では、専門性を保ちながら、初めて学ぶ人にも全体像が伝わるように説明しなければなりません。
この受賞は、南極研究の成果だけでなく、人工衛星観測と現地観測の役割、海水による底面融解、将来予測の不確実性などを読者の理解につなげた点への評価でもあると考えられます。
難しい内容を単にやさしい言葉へ置き換えるだけではなく、「なぜ簡単には断定できないのか」まで説明したところが、代表作として長く読まれる理由なのでしょう。
2025年Julia and Johannes Weertman Medal
2025年4月29日には、欧州地球科学連合(EGU)からJulia and Johannes Weertman Medalを授与されました。
EGUが示した受賞理由では、氷河動力学と氷・水相互作用に関する研究、特に湖に接するカービング氷河や氷河湖決壊の理解への貢献が評価されています。
カービングとは、氷河の先端から氷の塊が崩れ落ち、氷山などとして分離する現象です。
氷河湖決壊は、氷河の融解水などでできた湖から水が急激に流出する現象を指します。周辺地域へ大きな影響を及ぼす可能性があるため、発生の仕組みを理解することが重要です。
北海道大学低温科学研究所の受賞紹介では、対象業績が「氷河の動力学および海洋・湖との相互作用に関する研究」と整理されています。
このメダルは、EGUの雪氷寒冷圏科学部門における国際的な顕彰です。「地球科学のあらゆる分野を通じた最高賞」と広げて表現するのではなく、雪氷寒冷圏科学分野での長年の貢献をたたえる賞と理解するのが適切でしょう。
2011年の国内論文賞から14年を経て、氷河と水の関係を追い続けた研究が国際的にも高く評価された節目となりました。
著作と受賞歴から分かる杉山慎の強みは?
ここからは、北海道大学、日本雪氷学会、中央公論新社、講談社、欧州地球科学連合が公開している情報を踏まえた筆者の考察です。
杉山慎さんの強みは、現地で測ること、物理的な仕組みを解明すること、社会へ伝えることを一つの循環にしている点だと私は考えます。
2011年度の論文賞と2018年度の北海道雪氷賞は、熱水掘削による現地観測と結びついています。
2013年度の学術賞では、観測されたデータをもとに、氷河・氷床の底面で起きる動力学的な過程を明らかにする研究が評価されました。
2022年の講談社科学出版賞は、専門的な成果を一般読者へ伝える力に向けられています。
そして2025年のWeertman Medalは、氷河動力学に加え、氷河と海・湖の相互作用に関する長年の研究貢献を国際的に評価したものです。
これらの賞は、別々の活動に見えて、実際には一本の線でつながっています。
氷河に孔を開けて測る。得られたデータから氷の動く仕組みを考える。論文として専門家へ伝える。さらに一般書を通じて、地球環境に関心を持つ読者へ届ける――という流れです。
受賞数だけを見ると見落としやすいのですが、杉山慎さんの研究実績には、「観測から発信までを途切れさせない」一貫性があります。
研究成果を単純化しすぎない姿勢
もう一つの強みは、科学的な不確実性を隠さずに伝える姿勢です。
南極氷床の変化には、大気の温度だけでなく、海洋循環、降雪、棚氷、氷河底面の水などが関係します。
ある地域で確認された現象を、そのまま南極全体に当てはめることもできません。観測期間や観測地点が限られていれば、その制約も考える必要があります。
私は、『南極の氷に何が起きているか』が評価された背景には、答えを強く言い切ることより、どの観測から何が言えて、どこから先は検討が必要なのかを示したことがあると考えます。
これは読み手を迷わせる説明ではありません。
むしろ、科学者がどのように証拠を積み重ね、異なる可能性を比べているのかを知ることで、ニュースで流れる「氷床減少」という言葉を、自分なりに確かめる視点が持てるようになります。
今後は研究を「つなぐ役割」にも注目
杉山慎さんの研究は、一人だけで完結するものではありません。
極地での観測には、現地の安全管理、掘削機器の運用、人工衛星データの解析、海洋観測、気象観測など、異なる専門を持つ研究者の協力が必要です。
また、氷河や氷床の変化を理解するには、同じ場所で観測を長く続けることも欠かせません。研究者が交代しても、方法やデータを次の世代へ引き継がなければならないのです。
その意味で、教育活動や国際共同研究を通じて若い研究者を育てることは、研究論文を書くことと同じくらい将来へ影響する仕事だと考えられます。
杉山慎さんの著作と受賞歴をたどると、「発見する研究者」だけでなく、伝え、育て、観測を次代へつなぐ研究者として役割を広げてきた姿が見えてきます。
これは、出版物の冊数や受賞件数だけでは測れない実績ではないでしょうか。
杉山慎の代表作と受賞歴まとめ
杉山慎さんの代表作は、2021年に中央公論新社から刊行された『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』です。
公開資料から確認できる主な出版物4冊の内訳は、一般向け単著1冊と、共著・分担執筆による3冊です。「著書が全部で4冊」「4冊すべてを単独執筆した」という意味ではありません。
受賞歴では、2011年度日本雪氷学会論文賞、2013年度同学術賞、北海道大学教育総長奨励賞、2018年度北海道雪氷賞、第38回講談社科学出版賞、2025年Julia and Johannes Weertman Medalの主要6件を確認できました。
そこから見えてくるのは、氷河の内部や底面を直接観測し、氷が動く仕組みを解明し、その成果を専門家にも一般読者にも伝えてきた一貫した歩みです。
人工衛星という「広い目」と、熱水掘削という「深い目」を組み合わせ、見えない氷河の変化を確かめる。その地道な研究の積み重ねが、国内外の評価につながっているのですね。
よくある質問
杉山慎の代表作は何ですか?
代表作は、2021年刊行の中公新書『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』です。2022年9月15日に第38回講談社科学出版賞を受賞しました。
杉山慎の主な出版物4冊はすべて単著ですか?
いいえ。公開資料から確認できる主な4冊のうち、一般向け単著は『南極の氷に何が起きているか』です。ほかの3冊は共著または分担執筆を含む共同刊行物であり、4冊すべてを一人で執筆したわけではありません。
Julia and Johannes Weertman Medalの受賞理由は何ですか?
氷河動力学と氷・水相互作用に関する研究が評価されました。特に、湖に接するカービング氷河や氷河湖決壊の理解への貢献が受賞理由として挙げられています。
春野滋(エンタメ&スポーツ愛好家ライター)


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